日本生物地理学会 2010年度大会ミニシンポジウム

次世代にどのような社会を贈るのか?

2010年4月3日(日)15:00-18:00
立教大学14号館 D309号室(〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1)


[趣旨] (森中 定治)

  昭和3年(1928年),鳥類学者の蜂須賀正氏博士と当時生物地理学の第一人者であった渡瀬庄三郎教授によって 日本生物地理学会は設立されました.

  蜂須賀正氏は,平成15年(2003年)に日本生物地理学会が開催した生誕百年記念シンポジウムにおいて ”型破りの人” との評がなされましたが,自己の信念と哲学に基づいて時代を駆け抜けた人でありました. 渡瀬庄三郎は,区系生物地理学における旧北区と東洋区の境界を示す”渡瀬線”によって著名であり, 特定外来生物として最近問題になっているジャワマングースを移入しましたが, 当時困っていた野鼠やハブの被害を防ぐために生物学の知識を社会に役立てようと 積極的に行動した強いパワーの持ち主でありました. 日本生物地理学会創設者のこのような人となりを考え,学問を学問としての枠に留まることなく, 社会に役立てることができればと思います.生物学に関するフォーマルなシンポジウムの他に, このミニシンポジウムをもつのはこのような理由です.

  昨年は,現代の若者の行動や心理について多数の書物を出版され又 立教大学でも教鞭をとっていらっしゃる精神科医の香山リカ先生に,特に若者を中心とした社会問題について, どこが問題なのか,社会構造と若者の心理について深く掘り下げて頂きました.また, 東京大学の経済学部長でいらっしゃり,現在は地方審議会会長を務められる神野直彦先生に 現代の世界の経済学がどのように変遷していったのか,また著しい高税のなかで社会の活力と高い意欲を失わず, CO2 排出と経済成長をデカップリングさせたスウェーデンの社会構造とそこに住む人々の意識をお話し頂きました.

  EPR (Energy Profit Ratio, エネルギー利益率)という言葉があります. 自然からエネルギーを取り出すために用いるエネルギーよりも取り出したエネルギーの方が小さければ, エネルギーを取り出すほど社会の損失になります.エネルギーを取り出すには EPR は1以上の必要があります. いま世界には9兆バーレルの石油があると言われますが,EPR から使用可能なオイルは2兆バーレルであり, そのうち1兆バーレルが既に無くなっています.今後も人間は生きていかねばなりませんから, 石油のないなかで人力でも食糧生産は行なわねばなりません.しかも,食料の場合は生産するエネルギーが, 作られた食料のもつエネルギーよりも大きいと考えられます.昆虫類は現在一般的には食料として用いられていませんが, 途上国では主要なタンパク源として重要な位置にあり,先進国の食糧問題に大きく役立つ可能性を秘めていると思います.

  本年は,世界の昆虫食の権威である立教大学文学部の野中健一先生に「虫を”食べる”目に学ぶ」と題して, 来るべき時代に備えて,また元埼玉県市議会議長であるNPO法人エコネットくまがやの山田胤雄先生に 「子ども達に豊かな自然を残してあげよう」というテーマでお話し頂きます.私たちは, どういう社会を今後の世代に贈ろうとするのか,お二人の演者にリラックスして存分にお話し頂きたいし, 我々もまたリラックスしてお話を拝聴させていただきます.